Ready Boost か eBoostr か |
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Windows Vistaで新規に導入されたReady Boostは実装メモリが不充分な機体の救済策の印象が強かった。実際にはメモリ不足をどうにかしてくれるわけではなかったわけだが誤情報が錯綜して理解が広がらなかった感はあるよね。
元々XPの頃から、いやそれ以前のNTでも、Windowsは剰余メモリを[あるだけ]ディスクキャッシュに使う仕様になっていた。実はこれがとても「効いて」いて、空きメモリが実装の半分を割り込むと如実に「重く」なる傾向があった。例えば、日本語入力時には辞書データベースを読み込んで検索するので、ディスクキャッシュが少なくなるともたつくようになる。Ready Boostはこの「余剰メモリの不足」を補う技術と思ってよいだろう。
XP時代にUSBフラッシュメモリ(以下「USBメモリ」)が登場した。これに呼応するようにVistaではReady Boostが実装された。Ready BoostはHDDよりランダムアクセスの速いUSBメモリにディスクキャッシュを置く事でメインメモリキャッシュ程ではないまでもHDDのみより応答を改善しようとしたのだが、USB2ではPCの応答を劇的に改善できたとは言い難かった。そしてUSB3が普及する頃には深刻なメモリ不足の機体は比較的少数派になり、その上SSD(ランダムアクセスもUSBメモリより速い)の普及でReady Boostが役立つ局面は更に減ってしまった。
Ready Boostはシャットダウンでクリアされてしまう仕様なので、Windowsの起動(ブート)シーケンスの加速はほぼない(※)。また、ブート直後のアプリケーション起動も改善しない。キャッシュに書き込むため最初の1回はどうしてもHDDから読み出す必要がある。Ready BoostはUSBメモリを使うという性格上、いつ抜かれてもWindowsの動作に支障をきたさない安全性を最優先した結果、MSはシャットダウンでリセットする設定を選択したのだろう。キャッシュ内容を記憶し、リブート後も引き継ぐ設定ならWindows OS自体の起動も高速化しただろうし起動直後のアプリケーション起動も加速できたのは明らかで、期待した人達にとってはかなりのがっかりポイントとなった。
「イーブースタ」と発音するらしい。Vistaが発表されてすぐ、Ready BoostがXPでも使えればとの希望に応える形で登場した。商品である。当然値段がついている。現在のver.4は3,800円/台。ただし記事を書いている現時点では千円割引中。
eBoostrはアプリケーションでReady Boostと同様の機能を提供する。と、それだけならXPにのみ有効でVista以降のWindowsには用なしだろうと思えるがさにあらず。eBoostrはReady Boostが備わったVista以降のWindowsでも優位性を発揮できるよう工夫されている。最も大きな違いは「学習したキャッシュ内容を保持したままリブート」できる事。これによりWindowsの起動もちょっとだけ早くなる。実際にはアプリケーションで機能を提供しているため、電源投入直後から効くわけではなく、あくまでもeBoostrのサーヴィスが起動した後からしか効かない。ネット情報によれば実際には「サインイン画面が出るあたりから」効き始めるらしい。実際アクセスランプのあるUSBメモリを使って起動時に眺めていると、サインイン画面になる少し前からしきりに点滅し始める。そして確かにそれ以降の所要時間は少し短くなっているようだ(面倒なので実測はしてない。御免)。8BG実装、7,200rpmのHDDの機体にUSB2のUSBメモリを使ってeBoostrを組み込んでみたら体感上応答が改善しているようなので、HDDが省電力志向の5,400rpm品だったりノートPCだったらもっと効果が大きく感じられるだろうし、USBメモリもUSB3なら更に効く可能性が高い。
eBoostrがReady Boostと違うのは「シャットダウンしてもキャッシュ内容を覚えていて次回以降起動時から効く」だけではない。他にも「優先的にキャッシュするアプリケーションを指定できる」「キャッシュ[しない]ファイルやフォルダを指定できる」というのも、限られたキャッシュ領域を有効に使う上で有用だ。更に「暗号化しない」という選択もできる(正確にはver.4になって暗号化機能が追加され選択できるようになった)。Ready Boostでは暗号化・圧縮がデフォルトであり選択肢はない。暗号化には当然CPUパワーを使うわけだから、CPUパワーの低い機体ではそれを辞める事で更に応答の改善がある。ただし当然USBメモリを抜いて持って行かれたらその内容は読み出せてしまう事になるのでリスクは自己責任になる。あと、4GB以上実装した機体を32bitOSで使うとOSが認識できないメモリ領域ができるが、eBoostrはこの領域も超高速キャッシュ領域として利用できる。これらが効いたのか、うちのWindows10 32bit版のThinkPad(4GB実装)ではWindowsの起動時間が同じUSBメモリをReady Boostに設定した状態より30秒ぐらい短かった(2分半→2分)。正直、この「OS起動の加速」と「OS起動直後のアプリケーション起動の加速」という一番メリットを体感できる部分をReady Boostは捨ててしまったわけだ。実に惜しまれることだと思う。